ゆるるん自宅警備

大人になりたくない大人のブログです

太郎君

これは施設に居た頃のお話・・・。

 

保母さんに「明日から新しい子が入園します。それで・・・あまり見た目の事は言わないであげて欲しいの・・。」と言ってきた。

見た目の事・・・?外国人なのか?別に施設にはハーフの子もいるし何なんだろう?と疑問に思ったが、私は特に気にしなかった。

前置きすると言う事は何かあるんだろうけど、深く聞けるような感じではなかった。

次の日、保母さんに手を引かれて幼稚園生位の小さい子が施設にやってきた。

不登校の私はずっと施設に居たので自然な流れで一番最初に紹介された。

その小さい子は保母さんの後ろに恥ずかしそうにすっぽり隠れていた。

保母さんの後ろからスカートがひらひらと見えているけどなかなか顔を見せてくれない。

どうやら恥ずかしがり屋さんらしい。

ようやくチラッと見せてくれた顔に私は正直ビックリした。

顔に大きく真一文字の傷があった。でも見せてくれる顔は笑顔だ。

私は動揺を悟られないように精一杯の笑顔で「こんにちは!今日からよろしくね!お名前は?」と聞いた。

「太郎・・・です・・・よろしく・・・」とはにかんで挨拶してくれた。

太郎・・・あれ?スカート履いてるけど・・・男の子?女の子?どっちだろう?と悩んだ。

保母さんに連れられてその子は医務室に行った。

別の保母さんに「あのね・・・あの子は小学校二年生なんだけど、今まで学校に行ったことがないみたいなの・・だから絵本とかいっぱい読んであげて・・・」と言われた。

「太郎って事は男の子?」と聞いたら「男の子よ・・・あの服で保護されたみたいなの・・・今から服を買ってくるから太郎君を見ててくれる?」と言われた。

私は太郎君としばらく遊ぶことになった。

医務室から帰ってきた太郎君はそわそわしていたけど、15分も経てばカワイイ笑顔を見せてくれるようになっていた。

絵本を読むと珍しそうに眺めてニコニコ笑い、たくさん言葉をくれるようになっていた。

太郎君はすごく身長が低くて、小学校二年生と言う感じではなかった。

時々「ママは?」と言う時があり返事に困った。

この顔の傷をつけたのが「ママ」だったら・・・。

そう思うと「ママ」は来ない方が安心するだろう。

もし「ママ」がこの傷をつけた人じゃなかったら・・・来ないと寂しい思いをするだろう。

私は「ママは?」と言う質問に「ごめんね・・・分からないんだ・・・後で先生に聞いてみようね」と言った。

すると太郎君は「ママはね・・・お勉強しないとご飯食べちゃいけないって言うの・・・僕今日ご飯食べれないのかな?」としょんぼりしていた。

その質問には答えられる。

「太郎君は今日ここでみんなで一緒にご飯を食べるんだよ。ご飯が食べれないなんて無いよ。大丈夫だよ」と言った。

太郎君はきょとんとして「何で?」と聞いてきた。

「何で?」この質問は実に難しい。

「今日から太郎君のおうちはここだから、ここでご飯食べるんだよ」と言ってもなかなか伝わらない。

その後太郎君は何回も「ママは?」と聞いてきた。

私は思い切って「太郎君のママを見たことが無いからどこにいるか分からないんだ・・・ごめんね」と言った。

そしたら太郎君は「ママはね・・・すごく怖いんだ・・・いつ迎えに来るのかな・・・」と怯え泣き始めてしまった。

私は太郎君に「大丈夫だよ」と言って太郎君の手を握ろうとしたら太郎君に思い切り噛みつかれてしまった。

太郎君はきっと攻撃されると思ったのだろう・・・。

泣きじゃくる太郎君をなだめる為、保父さんから教わった「心臓と心臓をくっつける」作戦に出た。

太郎君は小さくてすっぽり私の腕の中に入ってしまった。

太郎君は泣きながら「ごめんなさい」を繰り返した。

「太郎君は何も悪いことしてないから、ごめんなさいって言わなくていいんだよ。私も急に触ってごめんね・・・怖かったね・・・」と言った。

胸の中の太郎君は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。

「ママが怖い」太郎君はずっと言っていた。

1時間位太郎君は離れなかった。

「抱っこ」がものすごく気に入ったらしい。

抱っこしながら太郎君は色んな事を話してくれた。

この施設に来るまでの事だった。

「昨日はお魚を食べたんだよ」とか「ここに車で来たんだ」とか「○○先生って言う先生が優しくしてくれた」とか・・・。

太郎君は「どうしてお姉ちゃんは怒らないの?」と聞いてきた。

さっき噛みつかれた事を言っているのか?

「危ない事やいけない事をしていないんだから怒らないよ」と言ったら太郎君は笑った。

太郎君の顔の真一文字の傷を見ると心臓が潰される様なものすごく切ない気持ちになった。

そんなこんなしていたら、保母さんが帰って来て太郎君の新しい服が到着した。

太郎君の鼻水をちゃんと拭いて、太郎君のファッションショーが始まった。

どれを着てもよく似合う。

「これ全部僕の?」と何回も嬉しそうに言っていた。

「それは全部太郎君のだよ」と言っても「本当に?本当?」と何回も聞いてくる。

よほど嬉しかったんだろう。

あっちもこっちも色々お色直しをして楽しそうにしていた。

夕ご飯の時の太郎君は落ち着かなくて「明日もご飯が食べれる?」と聞いてきた。

「ご飯は一日三回食べるんだよ、次のご飯は朝起きてから食べるんだよ」と言ったら「いっぱい食べていい?」と言ってくれたので「いっぱい食べてね」と言ったらニコニコ顔。

その後太郎君は夕食後に保父さんから初めての「ランドセル」を貰っていた。

初めてのランドセルに興奮して寝るまでずっと背負っていた。

数日後、太郎君はピカピカのランドセルを背負って元気よく登校していた。

太郎君は学校が大好きになったみたいだ。

元気いっぱいの太郎君だけど、時々不安になるみたいで「抱っこ」と言ってくる時があった。

保母さんに「あ~太郎君また甘えてる~そろそろ抱っこ卒業しないと駄目だよ」なんて言われちゃうのを気にしてなのか、わざわざ私の所に「抱っこ」と言いに来る。

太郎君を初めて抱っこした時は「折れちゃうんじゃないか?」って不安になる位だったが、毎日たくさん食べてたくさん遊んでいる太郎君は体がしっかりしてきた。

施設を出る時も「抱っこ」と言われ、私の方が泣きながら抱っこしてさよならをした。

5年後、たまたま施設に用事があって行ったら太郎君はものすごく背が伸びていて私の身長を超えていた。

最初は「え?誰?」と思ってしまった。

成長した太郎君だけど、はにかんだカワイイ笑顔はそのままだ。

話を聞くと部活でバスケットボールをしているらしい。

色々話して帰る時に太郎君が駆け寄ってきて「あの時・・・ごめんね。俺もう大丈夫だよ。心配しないで」と言ってくれた。

いつの間にこんなに大きくなったのだろう・・・。

当時太郎君は両親に虐待されていた。
刃物で顔を切りつけられて、食事もまともに与えられずやせ細っていて痣だらけだった。
攻撃でしか身を守る方法を知らなかった。
それでも母親の事を「ママ」と呼び、心の中で「優しいママ」を思い描いていた。
太郎君は一度も「ママなんかいらない」なんて言わなかった。
あの時・・・太郎君が私の胸で泣きじゃくっていた時、「どうしてこんな思いをするの?子供はどうして親を選べないの?」と本気で思った。
私は太郎君を抱きしめて世の中を恨む事しかできなかった。
でも太郎君はあの時の私と同じ年齢になった時、私に「俺、もう大丈夫だよ」と言った。

顔の真一文字の傷も色がなくなり随分目立たなくなった。

いっぱい大人に裏切られていっぱい辛い思いした太郎君だけど、その分強くたくましくなった。

小さい子に「お兄ちゃん」と慕われている太郎君を見たら「そうだね!ちゃんとお兄ちゃんしてるね!」と言う気持ちだった。

心の傷は消えないだろうけど、太郎君はものすごく優しい目をするようになった。

「何か困ったらいつでも相談してね」と言ったら「うん・・・何かさ・・・ありがとう」と言ってくれた。

太郎君はその後、高校卒業して寮がある会社に就職した。

時々思い出してくれているだろうか・・・。

いや・・・思い出さなくてもいい、元気でいてくれればそれでいい。