ゆるるん自宅警備

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じいちゃんの歌の練習

じいちゃんがある日福山雅治の「桜坂」のCDを持ってきて「これをカセットテープにしてくれ」と言ってきた。

いきなりCDを出してきたのと「桜坂」で私は二度ビックリした。

軍歌しか歌えなかったじいちゃんに何があったのだろう?と言う気持ちだった。

じいちゃんは「CD」を「シーデー」と言う人で今までCDを触ったことないんじゃないか?って言う人なのだ。

「俺は今日からこの歌を覚えるんだ。予約までして買ってきたんだ」と自慢げに語るじいちゃんはちょっとかわいかった。

じいちゃんは以前「ハリーポッター」を全巻買って失敗したことがある。

カタカナの登場人物ばかりが出てきて、しかも魔法使いの話に着いていけなかったんだろう。

ダンブルドアって誰だっけなぁ?」と独り言を言いながらページを戻したり、また読み進んだりして嫌になったみたいだ。

最初のハリーポッターと賢者の石を読み終わることなく私に一式くれたのだ。

音楽ならハリーポッターの様になる事もないだろう・・・と思い私は快く引き受けた。

5分のカセットを買ってきてA面とB面の両面に桜坂を入れてカセットをひっくり返せばまた流れる様にして渡したらじいちゃんはニコニコしていた。

その日を境にじいちゃんの部屋から大きい音量で「桜坂」が流れてきて私もじいちゃんと福山雅治の声に耳を傾けていた。

じいちゃん覚えられるのかな?と思いこっそり部屋を覗いたら老眼鏡で一生懸命に歌詞カードを見ている。どうやら字が小さいみたいだ・・・。

「その歌詞カード、おっきくコピーしようか?」と言ったら「おう!やってくれよ!」と結構ノリノリだ。

誰に歌って聞かせるのだろう?と思いながらコピーしてじいちゃんに渡した。

じいちゃんは車に乗るのにもわざわざカセットテープを持って聞いているようだ。

家でも車でもどこでも聞いている。

飽きもせずよくおんなじ歌聞けるなぁ・・・などと思っていたらじいちゃんの盛大な間違えを聞いてしまった。

♪君よずっと幸せに~♬風にそっと歌うよ~♪うーよよー♬と歌っているのだ

「うーよよー」って何?と思って歌詞カードをみた。

どうやら「Woo Yeah」を読めずに音で聞いたら「うーよよー」になるらしい。

気持ちよく歌っているじいちゃんに間違えを指摘できるわけもなく、私は「うーよよー」を聞き続けた。

近所の人に「おじいちゃん、孫と話合わせるのに一生懸命なんじゃない?」と言われてしまうくらいじいちゃんはあちこちで披露しているみたい。

周りの人の反応も「すごーい!」から「またいつものやつね」ってなるのが人間なのだ。

じいちゃんもさすがに気付くらしくしょんぼりした姿を見たら何だかかわいそうにもなったが、さすがに1年も歌い続けたら「もういいよ」と思うもんだ。

 

しばらくしてじいちゃんは新しいCDを買ってきた。

24時間テレビで流れる「サライ」だった。

サライ谷村新司加山雄三の二人で歌う歌だからじいちゃん一人では少々難しいんじゃないか?と思ったら、じいちゃんはいつのまにか週に一回公民館でやるカラオケ教室に通っていたらしい。

そこで意気投合したお友達と二人で歌おうと約束したと・・・。

桜坂からカラオケ教室とはたまげたもんだ。

ばあちゃんもカラオケ教室に通っていたがじいちゃんとなると話は別だ。

ばあちゃんなら放っておくが、じいちゃんだと何だか助けたくなる。

早速カセットテープを作ろうとしたが、サライの練習カセットを作るのには苦労した。

カセットに入れる場合5分テープと10分テープがあるのだがサライの曲は6分30秒位の長さなのだ。

5分テープだと足りずに途中めちゃくちゃ盛り上がっているサビの部分で「♬さくらぁ~ふぶぅ~きのぉ~♩サラ・・」の所で「カシャン!」とテープが終る。10分だと無音の時間が結構流れる。

それに歌詞カードを大きくコピーするまではいいけど、どっちが谷村新司でどっちが加山雄三をやるのかによって蛍光ペンで文字に線を引くのかが悩むところだ。

じいちゃんに「じいちゃんは加山雄三歌うの?谷村新司歌うの?」と聞いたら「まだ決めてねえんだよ」と言うので、谷村新司は黄色い線、加山雄三は緑の線を引いた。

カセットテープの無音の時間を説明してサライを10分テープに入れた。

じいちゃんは毎日カセットを聞いてサライを練習した。

結局どっちが谷村新司加山雄三か決まらず、一人で全部歌っていた。

練習をしていたらお披露目したくなる時が必ず来る、じいちゃんにもその時が来た。

カラオケ教室の発表会に出ると言う。

 

実は私にはカラオケ教室の発表会には嫌な記憶しかない。

ばあちゃんもその昔カラオケ教室の発表会があり見に来いと言われて強制的に連れていかれたのだ。

ばあちゃんから豪華な花束を持たされて「歌が終ったら渡しに来い」と言う。

「こーゆーのは自分で用意するんじゃなくて、周りの人からもらうもんじゃないの?」と不満を言ったが「うるさい子だね!つべこべ言わずに持ってきなさいよ!歌が終ったらだからね!」と聞き入れてくれずにどこかへ消えて行った。

つべこべ言いたくなる気持ちをグッとこらえて色んな方の歌を聞きながら待っていた。遂にうちのばあちゃんの出番が来た。

ばあちゃんは「どこで売ってるの?」って聞きたくなるような美川憲一風の全身キラキラのスパンコールのドレスを着て、まるで歌手になった様に得意げに歌っていた。

ばあちゃんを見て一気に恥ずかしくなって今すぐ逃げ出したくなったが、自作自演の花束を渡すミッションをクリアしなければ後でひどい事を言われるだろう。

歌が終るまでの時間がすごく長く感じた。きっと私はそっけない態度だっただろう・・・。

花束を渡して逃げる様に帰ったあの日の記憶・・・。

じいちゃんはきっとスパンコールの衣装なんて着ないと思うけど心配してしまう。

でもじいちゃんのサライは聞いてみたい。私はじいちゃんのカラオケ教室の発表会を見に行った。

じいちゃんに呼ばれた訳でもないけど、毎日一生懸命練習しているのを知っていると応援したくなるもんだ。

私は小さいけどちゃんと花束を用意した。

「花束持ってこい!」と言われるとカチンとくるがじいちゃんはそんな事言わない。

じいちゃんの番が来た、じいちゃんはいつもよりオシャレをした格好でお友達と一緒にサライを歌っていた。

どっちがどっちのパートとか関係なしに二人で全パート歌っていた。

なんだかとってもかわいくて笑ってしまった。

でも花束を渡すことはしなかった。二人で歌う事を知らなかったから・・・。

花束は家に帰ってから渡した。

「おう!見に来てたのか!ありがとな!」と言ってニコニコしていた。

じいちゃんは「桜坂」と「サライ」を歌えるようになって自信がついたのか?次々にCDを買ってきた。

カセットテープもCDの数だけ増えて行った。

ビリーバンバンまた君に恋してるとかその時期でちょっと話題になった歌をいつもチョイスしてきた。

色んな歌を歌ったのにいつまで経っても「桜坂」だけは「うーよよー」と歌い続けるじいちゃん。

完全に私の中では「うーよよー」でインプットされた。

福山雅治には申し訳ないが、私はうーよよーで歌い続けるだろう。