ゆるるん自宅警備

大人になりたくない大人のブログです

お姉ちゃんの脅し文句

私は以前ブログで書いたが施設で数年間過ごした。

その時私も「お姉ちゃん」と呼ばれた。

きょうだいが居なかった私は「お姉ちゃん」と呼ばれて恥ずかしい気持ちになったがちょっと嬉しかった。

赤ちゃんから高校生までのたくさんの人が一緒に住む。

寮生活と考えた方が分かりやすいと思う。

敷地の中にいくつもの建物が並びそれぞれの家がある、一つの家に8人の子供が住む。

8人の子供たちはバランスよく幼稚園生か小学校低学年2人、小学校中学年から高学年2人、中学生2人高校生2人みたいな感じで8人だ。

体育館や校庭みたいな広場があり、大規模な駐輪場、駐車場がある。

医療棟に行けば風邪をひいたりしてもすぐに医師に診てもらえるので町の病院に行く時はよっぽどの時である。

みんなは施設の事を「学園」と呼んでいた。学園ではみんながきょうだい、みんなが家族。

 

小さい子は私が入った日から「お姉ちゃん」と呼びニコニコしてなついてくれた。

きっと母親の影を探していたのだろう、抱き着いたりおんぶしたり甘えてくれた。

絵本を読むと喜んでくれて最初の頃一気に何冊も持ってこられた時はさすがに参ったが、そのうち寝かしつけの絵本を毎晩一冊読むのが日課になっていた。

毎回おんなじ絵本だと私自身が飽きてしまうので絵本をアレンジしてオリジナル話にして読んだりしていた。

小さい子と一緒にお風呂に入ったり、遊んだり、ご飯を食べた。

小学生の宿題なら見れたし、ちょっとズルして宿題を手伝ったりした。

小さい子達は本当のきょうだいの様に喧嘩をする。

おもちゃの取り合いや絵本の取り合いそんなのは日常茶飯事だ。

そっちのジュースの方が多いとかあっちのビスケットの方が大きいとか私からしたらどうでもいいような事で喧嘩をするのだが、その子達にとっては真剣な問題なのだろう。

でもあんまりギャーギャー騒がれると私も「うるさいなぁ・・・どっちでもおんなじだよ」と小言の一つも言いたくなるってもんだ。

昔ばあちゃんに言われた言葉をそっくりそのまま言っている自分にビックリした。

当然「おんなじじゃない!違うもん!」と言って泣き始める。

なんとかなだめようと私も必死になるが、頭にきた子供は「もう!お姉ちゃんの馬鹿!」と激しい八つ当たりする。

「人に向かって馬鹿なんて言うもんじゃないよ!次「馬鹿」って言ったら5円取るよ!」と脅してみた。

年齢によってお小遣いが決まっているのでこれは効くはずだ。

お金を取られると思うとグッと堪えるのが人間の本能ってもんだ。

涙をいっぱい目にためてぐずぐず鼻水をすする姿を見ていると何とも切ない気持ちになるが、その道はみんな通る道なのだ。私も実際小さい頃通った道だ。

「そうだ!今晩一緒にお風呂入る時、お風呂をシャボン玉でいっぱいにして遊ぼうか?」と提案すると「うん!やるやる!早くお風呂入ろう!」と言う。

結構子供は単純だ。だがまだ昼だ、夜まで待っててもらわないと困る。

夜まで大人しく待ってもらってシャボン玉で遊んだ。

 

「5円作戦」は1週間もしないうちに効果が薄くなってきた。

「5円取るよ!」と脅しても頭に来ている子供の脳に届かなくなり「バカバカバカバカバカ!」と馬鹿の連発をする。

泣き止んで「今何回馬鹿って言っちゃった?」などと聞かれると本気で取り立てるつもりがない私は戸惑いながら「えーっと・・・5回だね・・・」と言う。

「今の馬鹿は何円分?」と聞かれ「5×5=25だから25円分かな・・・」と答えると我を取り戻した子は泣き始めた。

その涙はだんだんと大きくなりまるでこの世の終わりか?ってくらい大泣きに変わった。

25円分の馬鹿を後悔している子供を目の前にかけてあげられる言葉はなかなか見つからない。

「払わなくていいよ」と言ったらもうこの魔法の言葉「5円取るよ!」は使えなくなる。

その言葉以上の言葉が見つかっていない私はまだこの魔法の言葉を大切にしたい。

ちょっと即効性は無くなってきたが、それは使いすぎた私のせいだ。

魔法の言葉は乱用しちゃいけないのだ。

でもこの世の終わりみたいに泣いている目の前の子供を慰めてあげたい。

私は「今回は特別に25円払わなくていいよ!ほんと特別だからね!こんなことは滅多にないんだからね」と言っておいた。

「ほんと?25円払わなくていいの?やったー!ありがとう!」とケロッと泣き止み喜び感謝された。ちょっとやられた感がある。

保母さんに「お姉ちゃんに25円払わなくてよくなったー!」とわざわざご丁寧に報告しに行った。

ビックリした保母さんに「25円ってどういうことなの?」と聞かれたのでありのままを話したら「脅すのはいい事じゃないけど、あの子にとってはいい薬かもね」と言って笑われた。

 

その後は魔法の言葉を探したがなかなかいい言葉に出会えなかった。

なまはげが来るよ!」なんて言っても通用しない。

そうゆうやつじゃない・・・。なんかもっとこう・・・リアルなやつじゃないとダメなんだ。

ある日みんなで夏の特番の怖い話を見ていた。ちびっこ達は怖いと言いながらも見ているが中高生グループは楽しみながら見ている。

おばけって言うのはだいたい決まっているパターンがある。

「青白い顔」と「真っ黒な長い髪の毛」が特徴で着ている服は「白いワンピース」で「夜」にだいたい出てくる。

番組を見ながら「これはイケるんじゃないか?」と思ったところで保母さんに「ちょっとー!幼稚園生と低学年はもう寝る時間よー」と言ってきた。

まだまだテレビを見ていたい気持ちも分かるが決まり事なので「今日は絵本2冊読んであげるから!一緒に寝よう」となだめて私は絵本を持ってちびっこに挟まれるような形でゴロンと横になった。

絵本を開こうとしていると「おばけって本当にいるのかな?」とワクワクした顔で聞いてくる。私の遊び心が走り出しそうだ。

「おばけかぁ・・・私もさぁ・・・実は見た事あるんだよねぇ・・・」と早速嘘をついてみた。

「本当に?聞きたい!」と身を乗り出して聞いてくるので「実はね・・・この学園で見た事あるんだよ・・・医療棟で・・・」と雰囲気たっぷりに話し始めたら「きゃー!こわいー!やっぱやめてー!」と布団をかぶって怯えている。

シメシメこりゃ使えるね♪と思ったけど今日はここまでにしてやろうと思い「もう怖い話しないよ~」と布団をめくったら二人のちびっこは爆睡していた。

絵本は2冊もいらなかったみたいだ。そっと布団をかけちびっこ部屋を後にして自分の部屋に戻った。

 

それからも幼稚園生、小学校低学年のパワーは劣ることなく駄々をこねてくれた。

そのたびに「白いワンピース着た・・・髪の長い女が・・・出たんだよ・・・」と雰囲気を稲川淳二並みに出して話して「いやー!!ごめんなさーい!!もう話さないでー!」と言われてシメシメと笑う、最強の魔法の言葉を手に入れた私は駄々もうまくかわせるようになってきた。

 

「5円取るよ!」から始まった私の脅し文句は増え続けた。

「脂ギッシュなおじさんが来るよ!」と、ちょっと気持ち悪い感じの事から「学校の先生に言いつけるよ!」などの定番のやつまで二年半の間に色んな事を言い続けた。

自分自身が不登校の癖にどの口が言ってんのか?と思わず突っ込みたくなるけど、ちびっこ達は本当にカチンと来る時があるんだ。

私もなかなか腹の立つ子供だったので、ちびっこ達と過去の自分を比較するとちびっこ達はカワイイレベルなのかもしれないが腹の立つもんはしかたない。

私はある日いつも通りカチンときたので鼻の穴に指を突っ込んでぐりぐりと鼻くそをほじりながら「この指を抜いて・・・どっちに鼻くそを付けてやろうかぁ~」とちびっこ2人を交互に見てニヤニヤした。傍から見たら完全に危ない人だ。

これは結構効果ありだった。ソッコーであちこち逃げるちびっこ2人を追いかけるのもなかなか楽しかった。

この鼻くそほじりが後になって大恥をかくことになるとも知らずに私は鼻くそをほじりながら追いかけ続けた。

卒業式が終わった後に卒園式と言うのをやってくれるのだ。

施設から独り立ちできるようになった生徒を見送る会なのだが、ちびっこ2人が交互に贈る言葉をかけてくれるのだ。

私の他にも何人か卒園する生徒がいてみんな感動する手紙を読んでもらっているのに対して私に対する贈る言葉は「いつも遊んでくれてありがとう、優しくしてくれてありがとう。宿題もいっぱい手伝ってもらいました。これからは先生たちが居ないんだから目覚まし時計でちゃんと一人で起きるんだよ。寝坊しちゃだめだよ。お腹を出して寝ちゃだめだよ。アイスは一日一個までだよ。鼻くそをほって人につけちゃだめだよ。変な顔をして人を追いかけちゃだめだよ。風邪をひかないようにね」だった。

一生懸命2人が考えて書いてくれたのだから嬉しいけど物凄く恥ずかしかった。

もっと他に書く事はいっぱいあったはずだ。なのにここでわざわざ言うってことはそれほど私の顔が印象深かったし、衝撃的な事だったのだろう。

感動に包まれている人達はこの贈る言葉を聞いて涙が引っ込んだらしく爆笑していた。

一応全部真実なのだから仕方ない事なのだが、色々誤解がある。

穴があったら入りたいとはよく言ったもんで私は穴に入りたい気持ちになった。

こうして私の学園生活は恥ずかしい出来事を暴露されて終わった。